途転の力学

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help リーダーに追加 RSS プーチン「王朝」は磐石なのか?【後編】(2008年世界情勢を考えるための10の視点:その7-2)

<<   作成日時 : 2008/01/29 11:56   >>

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ソ連崩壊とロシア危機から復活を遂げたプーチン・ロシア。
その復活をもたらしたのは、
世界経済拡大による資源価格高騰という「運」と、
独裁の『功』の部分を享受するために自身の権限拡大を
図った彼の政治的「実力」であった。


そして、強固な権力基盤を手にした彼は、
今後の自身の影響力持続のため、
後継に自身の傀儡を立て、自らは首相に就任し、
4年後に大統領に復活するという
長期的シナリオを用意してきた。


● 三期連続大統領にはなれないので、
  大統領選に先立つ下院選を自身への「信任投票」と
  位置づけ、2008年以降も権力の座に居座ることの
  「信」を問う。

● 自身の操り人形になる人物を大統領に後継指名し、
  その人物に自分を首相に任命させる。

● その操り人形が一期を勤めた後、
  自身が大統領に復帰する。



このシナリオがうまくいけば、
今後20年ほどプーチン時代が続くことになりそうですが、
果たしてこの筋書き通りにいくのでしょうか。



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<ここまでは筋書き通りに事が運んでいるが・・・>


まず、2008年以降も権力の座に居座り続けることに
対する「信任投票」と位置づけていた、
ロシアの下院選挙ですが、結果はシナリオどおり
プーチンの圧勝となりました。


【参考】プーチン与党圧勝、議席3分の2以上確実――ロシア下院選(日経)
http://www.nikkei.co.jp/kaigai/eu/20071203D2M0300F03.html

プーチン大統領は自らが統一ロシアの候補者名簿の第1位に入った今回の選挙を「信任投票」と位置づけており、同党の勝利を受け、来春の退任後も権力を維持する体制を固める構えだ。



そして、シナリオ通り、
次は自身の操り人形になる人間を後継指名し、
その人物に自分を首相に任命させる手を打ってきた。


【参考】ロシア次期大統領にプーチン大統領が第1副首相への支持を表明(AFPBB)
http://www.afpbb.com/article/politics/2324083/2445722
【参考】「プーチン首相」礼賛 “翼賛国家”まざまざ(産経)
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/071212/erp0712122140005-n1.htm

ロシアの大統領後継者と目されるメドベージェフ第1副首相がプーチン大統領に次期政権での首相就任を要請したことに対し、各界から礼賛の声が上がっている。“プーチン翼賛体制”の中では、権力が一部側近に独占されていることの不自然さや、一連の社会問題が置き去りにされていることへの批判はかき消されている。

メドベージェフ氏の首相就任要請に対し、プーチン氏はいまだ反応を示していない。プーチン氏が他のポストを検討している可能性は排除されないものの、沈黙を保つことで各界の「忠誠度」を見定めようとしているとの見方が一般的だ。




【参考】政権批判の急先鋒、カシヤノフ元首相の露大統領選立候補取り消し(読売)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2008012700175

経済官僚出身のカシヤノフ氏は、プーチン政権の第1期に首相に登用された。しかし、大統領に解任された後は、反プーチン勢力の指導者に転じ、街頭デモなどを通じて政権を「非民主的」と批判してきた。




そうなると、当然シナリオの第三段階も見えてくるわけで。

【参考】プーチン大統領、2012年再出馬の可能性を否定せず(AFPBB)
http://www.afpbb.com/article/politics/2282961/2143891

ソチでの会議で大統領と対談したロンドン在住のアナリストOksana Antonenkoは、「大統領は、2012年の大統領選はずいぶん先であり、検討するには時期尚早だとの見解を示すにとどまった」と述べた。



まさにここまでは
筋書き通りに事が運んでいるように見える。
しかし、このシナリオには本当に死角がないのでしょうか。





<エリツィン路線を否定したプーチンこそエリツィンの従順な下僕だった>


私はロシアの政治に詳しくないので、
ちょっと気になって調べてみました。


「そういえば、
プーチンってどうやって大統領になったんだっけ?」


【参考】ウラジーミル・プーチン(wiki)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3

1996年にロシア連邦大統領府総務局次長としてモスクワに異動し、KGBの後身であるロシア連邦保安庁(FSB)の長官を務めた。エフゲニー・プリマコフのボリス・エリツィン追い落としクーデターを未然に防いだ功績によりエリツィンの信頼を得、1999年に首相に任命されると第二次チェチェン紛争の制圧に辣腕をふるって国民の支持を集め、同年健康理由で引退を宣言したエリツィン大統領によって大統領代行に指名、2000年の大統領選挙でも圧倒的な人気を集めて過半数の得票を受け当選、正式に大統領となった。




実は、プーチンってもともとは
「エリツィンに指名されて大統領になった」
んですね。


「指名される」ということは、
当然「気に入られていた」ということですから、
大統領になる前のプーチンは、親エリツィンだったのです。
というかエリツィンに従順な僕(しもべ)だったんですね。



ところが、大統領になったプーチンはどうなったか。
エリツィン路線を引き継ぐどころか、
これを真っ向から否定し、制圧していったのです。


【参考】ウラジーミル・プーチン(wiki)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3

エリツイン時代はエリツインとその側近および支持基盤の新興財閥オリガルヒによるメディア支配の時代であった。

〜(中略)〜

しかしエリツインに首相として引立てられ与党統一ロシアに支持されたKGB出身のプーチンが大統領になると、プーチンは警察・軍出身者のシロヴィキを登用しオリガルヒと対決した。オリガルヒは所有するメディアでプーチンを攻撃したが、プーチンは脱税・汚職などの捜査でオリガルヒを逮捕して制圧。恭順を誓った企業と和解し、恭順企業にメデイアを支配させ、右派連合 (ロシア)等オリガルヒ系政党を少数派に追いやり、権力を確立した。




つまり、エリツインは、自分の言うことを聞く子飼いとして
プーチンを後継指名したはずなのに、
その飼い犬に逆にかみ殺されてしまったわけです。


ここから何がわかるのか。


それは、満を持して後継に指名した
自身の傀儡であるはずの第一副首相メドベージェフ氏ですが、
彼だっていつ主人を裏切って噛み付いてくるか
わからないということです。



そして、自身の経験から、
そのことはプーチン自身が一番良くわかっているはずなのです。


そう考えると、ちょっと気になることがあります。
それは、

「なぜプーチンは早々と後継を指名したのか」

ということです。






<急がざるを得なかった「後継指名」>


ロシアの大統領選挙は今年の3月です。
しかし、プーチンは下院選が終わった直後の昨年12月に
早々とメドベージェフへの支持を表明しました。


もし、自身の権力基盤を維持したいのであれば、
各候補の自分への忠誠心を見極めるためにも、
支持表明はギリギリまで取っておく方が得策であるはずです。


それなのに、プーチンは早々と態度を表明してしまった。
それはよっぽどの自信の表れなのか。
それともメドベージェフのプーチンへの忠誠心を
心底信じているのでしょうか。


いや、そんなことは決してない。
なぜならエリツインに従順であった自分は
ものの見事に彼を裏切ったのだから。
どうもロシアでの権力移譲はそういう歴史があるようだ。


【参考】プーチン、院政への布石(ロシア政治経済ジャーナル)
http://archive.mag2.com/0000012950/20071004011942000.html?page=2

ちょっと歴史を振り返ってみましょう。

ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世は、革命の結果処刑された。レーニンがソ連を建国します。

革命最大の功労者レーニン。あの世に行く数年前から、スターリンに強制隠居させられていました。憤ったレーニンは、同志たちに「スターリンは権力欲が強すぎて危険だ。今のうちに排除した方がいい」旨の手紙を書いた。しかしウジェポーズナ(おそすぎ)でした。

スターリンはどうだったか。
彼は晩年、誰も信用することができず、毎日寝る場所を変えていたそうです。そして、「スターリン暗殺説」が今もたえません。後を継いだフルシチョフは、「スターリン批判」を展開し、スターリン時代を全否定。

そのフルシチョフ。政権内部のクーデターで失脚しました。

次のブレジネフは、晩年ボケた。
「自分では何も決められない都合のいい書記長」ということで、死ぬまでつとめることができました。
その後アンドロポフ・チェルネンコが早死にし、若いゴルバチョフの時代がやってきます。

15共和国からなるソ連を統治するゴルバチョフ。その一共和国の長であるエリツィンに反逆された。
それで、ゴルバチョフは「ソ連最初で最後の大統領」となったのです。

新生ロシアの初代大統領エリツィン。ソ連を崩壊させた段階で力尽き、残りは私腹を肥やすことに精を出します。エリツィンは心臓が悪く、まともに話すこともできない。重要な決定は、新興財閥ベレゾフスキーなどが行っていた。ベレゾフスキー等新興財閥軍団は、「このおっさん(エリツィン)は長くない。次の操り人形を探そう」と考えた。そして、「誠実でマジメで従順」と評判のいいプーチンを大統領に据えたのです。

ところがプーチンは、大統領になると、エリツィンと新興財閥をアッという間に裏切りました。ベレゾフスキーはイギリスに逃亡し、「第2次ロシア革命工作」をつづけています。

どうですか?ドロドロ(^▽^)でしょ?



そういう裏切りの歴史があるにも関わらず、
プーチンは早々とメドベージェフへの支持を表明してしまった。


ということは、
この態度表明は、
自ら「したいから」したのではなく、
「せざるを得なかったから」
と考える方が自然ではないだろうか。



では、なぜプーチンは
早々と態度表明をせざるを得なかったのでしょうか。





<プーチンの権力基盤は磐石ではない?>


まさにそのことを鋭く指摘している方がおられますので
ご紹介したいと思います。

【参考】ロシア「20年王朝」に狂い(佐藤優の地球を斬る)
http://www.business-i.jp/news/sato-page/rasputin/200712260002o.nwc

この大会でプーチン大統領が、メドベージェフ氏が大統領に当選した曉には首相に就任すると明言したことだ。筆者の理解では、このような意思表明をこのタイミングでプーチン大統領が行うのは早すぎる。プーチン大統領はかなり焦り、動揺している。

〜(中略)〜

一種の弁証法なのだが、国家院選挙で勝ちすぎてしまったために、プーチン大統領を支える政治エリートの間で、本格的な内部抗争を行う「余裕」が生まれてしまったのだ。

〜(中略)〜

党大会で正式の大統領候補に指名された後ならば、まだしも、なぜこの時点であわててこのような重要事項について発表する必要があったのだろうか。プーチン大統領やメドベージェフ氏は、無駄な発言をするはずがない。このような発言をする合理的根拠があるに違いない。プーチン政権の中枢で、かつてない権力闘争が開始されたので、反対派が動き出す前にメドベージェフ後継の流れを作ろうとプーチン大統領が焦っているのだと筆者は見ている。



扉を開けてみないと、部屋の様子まではわからないように、
一見、外からは強固な一枚岩に見えるロシアも、
扉を開けてみると、中は結構凄まじい様子らしい。


どうもロシアでは、
かつてない権力闘争が繰り広げられているようなのです。



その抗争が激しくなりすぎると、
自身に影響が及ぶことを恐れたプーチンは、
事態収拾のために、やむなくこの早いタイミングで
後継指名に踏み切らざるを得なかったということのようです。


つまり、ここからわかることは、

「プーチンの基盤は意外と磐石ではないかもしれない」

ということです。


この点を指摘している記事は他にもあります。
ちょっと長いですけど、引用させて頂きます。

【参考】「プーチン首相」は官僚出身の大統領をどうするつもりか(FT)
http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20071224-01.html

消息筋の間にも、メドベージェフ氏を「リベラル」と呼ぶことに抵抗感はあるようだ。プーチン大統領の経済顧問をつとめたアンドレイ・イラリオノフ氏は、メドベージェフ氏をよく知る立場にあったが、「彼は『リベラル』というわけではなく、文民出身だというに過ぎない」と語る。つまりメドベージェフ氏は、プーチン政権の枢要を占めるシロビキ(国防・諜報出身者)ではないということだ。「プーチン政権は、シロビキ(軍部)と官僚の2派閥から成り立っているが、メドベージェフ氏はその官僚出身者の代表ということだ」

〜(中略)〜

かつてウィンストン・チャーチルがいみじみくも語ったように、ロシア政治とは「じゅうたんの下でケンカする犬たちのようなもの」なのだとしたら、ここ数カ月というものロシア政局とくじゅうたんは、ぐちゃぐちゃに乱れまくっていたようなものだ。シロビキ対リベラルという権力闘争だけでなく、一枚岩とは程遠い治安機関の内部闘争も激しく行われていたようなのだ。本来ならばきっちり厳密に描かれていた筋書きだったはずのものが、内部闘争の展開によって足をひっぱられ、そのたびにプーチン大統領は筋書き修正を余儀なくされたのではないか。モスクワの政治アナリストたちは、こう見ている。

〜(中略)〜

複数の情報源をもつある銀行関係者によると、プーチン大統領が自ら「統一ロシア」の名簿第1位になると10月に発表したのは、前述のスルコフ氏にとっては寝耳に水だったはずだという。事実、大統領は党大会中に自分の演説原稿を自ら手で書いている様子だった。
プーチン氏がその演説をしたまさに同じ日、政府内の権力闘争が白日にさらされた。ロシア麻薬流通監督庁の幹部がモスクワ空港で、銃を突きつけられて逮捕されたのだ。アレクサンドル・ブルボフ将軍が捜査指揮していた密輸・資金洗浄事件は、ロシア刑事当局の複数高官を巻き込み、検察当局の大々的な組織改革につながった。その影響だといわれている。

〜(中略)〜

元治安関係者によると、こうした内部の権力闘争はまるでシロビキが権力のっとりを企てている証拠のように見えたという。確かに、内紛表面化のせいでプーチン氏は、自分の影響力低下の印象を与えないためにも、議会選挙でそれなりの信任を勝ち取る必要があった。



世間一般では、この先何十年に渡って
プーチン「王朝」が続くというのがコンセンサスとなっております。


たしかに、外から見るとそういう筋書き通りに
進んでいるようにも見えますが、
一旦フタをあけてみると、
そう一筋縄ではいかない内情が垣間見えるわけで、


この意外なプーチン王朝崩壊シナリオも、
頭の片隅においておくべきかもしれません。


(次回からは「国内編」に移らせて頂きます)

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